イノベーション

【ウェブサイトリニューアル】btraxデザインメンバーが明かす舞台裏ストーリーとは?

ウェブサイトの大規模リニューアルに大切な要素は何しょう? btraxはホームページを刷新しました。 この記事では、btraxのデジタルプレゼンスの変革を主導した主要チームメンバーの想いや制作過程で感じた生の声をお伝えします。 リブランディングの取り組みや、課題と解決策、プロジェクトを導いたビジョンはどのようなものだったのでしょうか。 鮮やかな色使いや、遊び心のあるインタラクティブ機能は、btraxのアイデンティティと創造性の進化を反映したものです。限界に挑戦しながら、デザインと機能性のバランスを取ることに興味がある方は、ぜひご一読ください。 ウェブサイトをリニューアルした主な理由は? Brandon(Founder and CEO, btrax):今回のウェブサイトリニューアルは、btrax全体のリブランディングの一環です。AI等による社会の革新が起こる中でクライアントに寄り添うデザイン会社であることを表し、また、サンフランシスコと東京のチームをより普遍的なブランドアイデンティティで統一したいと考えました。 Jared(UI Desinger, btrax):クライアントとの絆を強化し、さらに新しい訪問者を惹きつけるため、ウェブサイトに新しさを打ち出す必要がありました。btraxには若いメンバーが多く、活気に満ちており、新しいデザインはそんな我々の姿と進化を表現しています。 Suzy(Associate UI/UX Designer, btrax):btraxのサービスはクリエイティブサポート以外にも拡大しており、会社が向かっている方向性の大胆さとインパクトを反映するためにウェブサイトを更新する必要があると感じました。   リニューアル中に直面した最大の課題は? Brandon:最大の課題の1つは、テキストの可読性を維持しながら鮮やかな色を使用することでした。btraxの文化を反映するためにより明るい色調を使いたかったのですが、デザインを視覚的に魅力的かつ読みやすくすることは簡単ではなかったです。 Jared:当初は、よりアーティスティックなデザインを目指していました。しかし、ユーザーへのヒアリングの結果、機能性もより強化する必要があることがわかりました。デザインの良さと使いやすさのバランスを取るのは大変でした。 Suzy:新しくノーコードツールFramerを採用しましたが、私にとっては初めての部分もあり、時間とリソースの管理が課題でした。いくつかの障壁はあったものの、ウェブデザイン自体は楽しみました。 新しいデザインはbtraxのブランドアイデンティティをどのように反映していますか? Brandon:新デザインのテーマは「ダイナミックでありながらスムーズ」です。遊び心がありながらエレガントなウェブサイトを目指し、それをインタラクティブな要素と全体的なデザインに反映させました。 Suzy:ニュートラルでクリーンな美学から離れ、より大胆なカラーパレットとタイポグラフィを採用して、自信と創造性を表現しました。これはbtraxのブランドの進化と一致しています。 Hiro (UI/UX Design Specialist, btrax):大きな画像、丸みを帯びた角、冒頭のリール動画で強いファーストインプレッションを与えることに注力しました。これらの要素が現代的で進歩的なイメージを醸し出しています。 ユーザーフィードバックはデザインにどのような影響を与えましたか? Jared:ユーザーのヒアリングを踏まえた修正により、アーティスティックだけでなく、機能性も担保したウェブサイトを実現することができました。明確なCTA、ホバーインタラクション、より使いやすいレイアウトを追加しました。 Suzy:より多くのインタラクティブな要素を取り入れて、楽しく魅力的な体験を作り出しました。使いやすさを損なうことなく、視覚的な喜びをユーザーに提供することが目標でした。 リニューアルで最も重要な視覚的な変更点は? Jared:より明るい色を導入し、モダンな印象を与えるためにコンデンスドサンセリフフォントでタイポグラフィを更新しました。より生き生きとして魅力的になりました。 Suzy:カラーパレットはより大胆になり、タイポグラフィーは自信と革新性を伝え、新しいブランドアイデンティティと一致しています。 Hiro:丸みを帯びた角を持つ大きな画像と冒頭のリール動画で、新しいウェブサイトに進歩的でモダンな雰囲気を与えています。視覚的な要素は、誇張しすぎない範囲で可能な限り大胆にしました。 新しいウェブサイトから訪問者に何を感じ取ってほしいですか? Brandon:不必要なテキストを減らし、ビジュアルとインタラクションでbtraxのストーリーを語ることに注力しました。訪問者がデザインを通してbtraxの本質を感じ取ってくれることを願っています。 Jared:訪問者が、btraxを先進的な企業であり、クライアントニーズを理解し、デザインのトレンドを把握している会社だと感じてくれることを願っています。 Suzy:訪問者にサイトの探索を楽しんでもらいたいと思います。大胆なビジュアルとインタラクティブな機能は訪問者を惹きつけるためのものであり、今後も改善を続けるにあたって、フィードバックをお待ちしています。 イノベーションの最前線へ。​​btraxの新たな挑戦にご注目ください。 今回のウェブサイトリニューアルは、印象的なデザインとユーザーフレンドリーな機能性を融合させ、会社のダイナミックな進化を体現しています。btraxの創造性とイノベーションへの取り組みを示すだけでなく、様々な仕掛けでブランドの本質をあらわす魅力的な体験へとみなさんをご案内します。 新しいウェブサイトによりみなさまとの繋がりを深め、将来何かでコラボレーションできることを願っています。

【Luupの台頭で再燃】なぜeスクーターはここまで批判されるのか?

最近日本では電動キックスクーター、別名eスクーターの話題が絶えない。特にスタートアップのLuupによる資金調達など、新たな電動マイクロモビリティとしてその勢いはどんどん増している感じがする。 後を経たない反対派の意見 その一方で、SNS上では「危なすぎる」「廃止すべきだ」「海外では禁止している街が多い」などの意見も散見され、かなり炎上気味な状態。 そんな中で、東京に加え、世界の他の街のeスクーターを取り巻く状況も踏まえ、個人的な考察をしてみたいと思う。 乗り物としてのeスクーターの危険性 そもそもなぜこんなにも反対論が多いのだろうか? それはおそらく、その車輪の小ささと重心の高さだろう。こちらのスクーターレースの動画を見てもわかるとおおり、細かなコーナーでは転倒する人が多発しており、その操作には一定の技術が必要とされる。 反対派の中には、この不安定さを指摘する人も少なくない。 eスクーターレースの様子 pic.twitter.com/OotayXHDUT — Brandon K. Hill | CEO of btrax 🇺🇸x🇯🇵/2 (@BrandonKHill) March 12, 2024 東京でもeスクーターを日常で見かけることの多くなった その一方で、ここ一年ほどで東京都内でeスクーターに乗る人たちを見ることが多くなったように感じる。 また、駅前や商業施設などにLuupのステーション設置を目にすることも少なくない。 サンフランシスコでの事情 では、世界の他の街ではどうなっているのであろうか。 まずはbtraxの本社のあるサンフランシスコでは、市民の日常の足としてかなり重宝している。市内のいたる所にBirdやLimeなど、複数のシェアリングeスクーターが置かれ、アプリ経由で気軽に利用することが可能。 ちなみに、btraxのオフィスにも二台ほどeスクーターが常備されており、スタッフがいつでも利用できるようになっている。 バルセロナでの事情 先日訪問したバルセロナではどうだろうか? こちらでも、多くの人たちが徒歩や自転車、メトロに合わせ、eスクーターでの移動を行なっていた。 ニューヨーク、パリ、マドリッド、メルボルンでは禁止 サンフランシスコやバルセロナで普及する一方で、eスクーターを禁止する都市も少なくない。 例えば、ニューヨーク市やパリ、マドリッドやメルボルンでは、その危険性からeスクーターの利用を禁止している。 なぜここまで都市によって事情が異なるのか? Eスクーターが日常的に普及している都市と、完全に禁止する都市。 なぜここまでの差が出ているのだろうか?それは、それぞれの都市の構造によるところが大きい。例えば、サンフランシスコの市街地の道は、車道と歩道に加え、”Bike lane” と呼ばれるかなり広めの自転車専用レーンがあり、eスクーターもそこを走ることが可能。 それにより、車道を走りながらも、安心して自動車との “共存” が可能なのだ。 バルセロナ市街地には自動車が侵入禁止の道が多くあたり、時間によりバリケードが設置され、自動車が入れないようにしている。これにより、安全にeスクーターが利用可能になる。 歩道で乗るのは結構危険 ちなみに、車道でeスクーターを乗るのは少し怖い感じがするが、歩道を走るのは、歩行者を危険にさらす可能性が高く、禁止されているので、絶対にやめた方が良い。 こちらの動画のように、出会い頭でぶつかり、歩行者へ多大なる被害を与えてしまうことになる。 日本でも電動キックスクーターが随分と普及してると思うけど、ぜひお気をつけください。先日、ロスアンゼルスで歩道を走るキックスクーターが道を横切る男性に衝突。事を荒げたくないと思った男性は病院に行かなかった。しかし、頭部に受けたダメージが原因でその後に亡くなっている。 pic.twitter.com/EjDGcQ0r3C — Brandon K. Hill | CEO of btrax 🇺🇸x🇯🇵/2 (@BrandonKHill) September 24, 2024 保守派 vs イノベーターの二元論ではない こんな感じで、それぞれの都市によってeスクーターへの法規対応が大きく異なる。 そんな中、日本国内ではLuupに代表される、シェアリングスクーターに対しての強い批判をする保守派と、新しいモビリティへの期待が高まる確信派との間での激しいぶつかり合いが定期的に見られる。 しかし、それはeスクーターという乗り物自体だけにフォーカスを当てているうちは、かなり的外れな気もする。 そんなビジネスの正しさとかの話じゃなくて、単純に「Luupあぶねーだろ」って言ってんの。 pic.twitter.com/wGj1OfQDfw — まことぴ (@makotopic) October 22, 2024 結論: eスクーターが安全に普及するには都市インフラが不可欠 Eスクーターが危ない乗り物なのか、東京をはじめとする日本の都市で普及させるべきかどうかに関しては、都市のインフラと併せて考える必要があるだろう。 例えば、上記で紹介したサンフランシスコの場合、自転車専用レーンのおかげでかなり安全に感じる。 その一方で、パリのような道が狭く、歩道と車道の距離が近いような都市においては、危なかっかしすぎて乗る気にもならない。 今後、東京でeスクーターを安全に普及させるには、まずは都市のインフラの整備から行う必要があるように思われる。

【デザイン進化の20年を祝して】btrax 20周年記念イベントハイライト、業界のトップランナーが集結

btraxは今年、創業20周年を迎えました。この20年間、私たちは日本だけでなく世界中の企業に革新的なデザインとマーケティングソリューションを提供し、その成功を支援してきました。 この達成を記念して、サンフランシスコのLyft本社で「20/20 VISION:  The Evolution of Design」をテーマに特別イベントを開催しました。このイベントでは、デザイン界の有力なリーダーたちが一堂に会し、デザインの進化とこれからの課題や機会について深い洞察を得られるパネルディスカッションが行われました。 パネルには、以下のメンバーが登壇しました: – Dan Harden氏:WhipsawのCEO、創設者であり、主任デザイナーとして1,000以上の製品を市場に送り出した実績を持つ。 – Gadi Amit氏:NewDealDesignの代表兼主任デザイナーであり、過去20年間の象徴的な製品を手掛けたクリエイティブの賢者。 – Brandon Ramos氏:Lyftのシニアプロダクトデザインマネージャーであり、MetaやWeight Watchersなど数々の大企業で20年以上チームを率いた経験がある。 – Jessica Leitch氏:frog North Americaのマネージングディレクターであり、15年にわたってサービスデザインに専念してきた。 パネルの進行役は、btraxの創設者兼CEOであるBrandon K. Hillが務めました。 デザイナーの役割の変遷 参加者たちは、デザイナーの役割がこの20年間で劇的に変化したことに共通の理解を示しました。かつては美しいものを創り出す職人と見なされていたデザイナーが、今や体験やライフスタイル、そしてビジネス戦略そのものを形作る重要な役割を担っています。 デザインは単なる製品開発の一部を超えて、意思決定の原動力となっています。デザインが戦略的資産としての価値を増したことで、デザイナーは企業の中核的な決定に深く関与しています。 以前は美しいものをデザインしていましたが、今ではライフスタイルや体験そのものをデザインしています。デザインはもはや名詞ではなく、動詞のような存在です。– Dan Harden さらに、デザインプロセスそのものも変化してきました。現在のデザインはより動的で協力的であり、単なる製品作成にとどまらず、複雑で多層的な問題に対処することに焦点を当てています。 AIがデザインにもたらす影響 ディスカッションでは自然と人工知能(AI)の話題も浮かびました。AIがデザイン分野で担う役割はまだ始まったばかりですが、参加者たちはその業界への影響について様々な見解を述べました。 AIは人間の創造性や直感を代替するものではありませんが、デザインプロセスの一部を効率化する強力なツールになる可能性があることに意見が一致しました。 「私たちはAIツールのキュレーターや管理者になるでしょう。」– Brandon Ramos 一部の参加者は、AIの創造力における限界や、文化的価値を損なう可能性についての懸念を示しました。しかし、AIを用いてブレインストーミングやプロトタイピングを迅速化し、最終的にはAIの生成物を導き洗練させることができれば、デザイナーにとって進化の大きな機会となるだろうと考える意見もありました。 若手デザイナーへのアドバイス パネル参加者は、これからデザインのキャリアを始める若手デザイナーへの有益なアドバイスを提供しました。重要なポイントの一つとして、創造性とビジネス感覚のバランスを取ることの重要性が挙げられました。 「AIは優れたデザインや創造性の代替にはなりません。システム思考を学び、SFを読んで視野を広げてください。」– Jessica Leitch デザイナーは美にとどまらず、企業の広範な経済的・戦略的目標を考慮することが求められます。システム思考の強固な基盤を築き、創造的な視野を広げ続けることが次世代のデザイナーにとって欠かせないスキルとされています。 さらに、AIが進化を遂げるとしても、パネル参加者たちは人間の創造性や批判的思考の価値を完全に置き換えることにはならないと強調しました。デザイナーは自分自身の独自のスタイルや問題解決能力を磨きつつ、AIを競争相手として恐れるのではなく、創造的なツールとして活用することに集中すべきです。 未来への挑戦と機会 パネルは、デザイン業界が今後直面する課題についてディスカッションの締めくくりを行いました。デジタル化が進む中で、技術の負の側面、例えば画面依存症やデジタルの過剰依存に取り組むことが主要な課題として浮かび上がってきました。 「技術や画面依存に対抗する必要があります。私たちはこれまで人々にアプリを使うよう促してきましたが、今度はその問題を解決することが求められています。」– Gadi Amit 技術の進歩と人間の幸福の調和が必要であることが繰り返し言及され、デザイナーには、思慮深くユーザー中心のデザインを通じて人々の生活を向上させる責任があると認識されています。 未来を見据えると、パネル参加者はデザインがこれからも世界の課題解決の最前線に立ち続ける未来を描きました。社会的・環境的課題に対処し、より持続可能で影響力のある製品を創出するために、次の20年間、デザイナーは批判的に考え、急速に進化する技術に適応する必要があります。 ビートラックスのこれから デザインイノベーションの20年を祝う今、ビートラックスは進化し続けるデザイン業界の最前線でリーダーシップを発揮することに引き続き全力を注いでまいります。私たちの20周年記念イベントは、業界が遂げた驚くべき進歩を振り返るだけでなく、未来への胸躍る可能性を垣間見る機会ともなりました。 過去20年間のデザイン革命の一翼を担ってきたことを誇りに思うと同時に、これからの新たな章に大きな期待を寄せています。 創造性、テクノロジー、そして人間中心の思考が世界を形作り続ける未来に向けて、ビートラックスは更なる挑戦を続けてまいります。私たちは、この先も革新的なデザインソリューションを通じて、企業や社会に価値を提供し続けることをお約束いたします。

なぜ「全ての人を対象にした商品」は売れないのか?イノベーター理論で学ぶターゲット戦略

この商品のターゲットユーザーは、全ての人です あなたの企業では、このようなターゲット設定をしていないだろうか。 私自身、過去に大企業で新規事業を推進していた際に「ニッチ市場すぎるのでもっとマス市場にターゲット層を広げるべき」という指示を受けたことがある。 このように起業では事業として成り立たせるためにできるだけ多く、広いユーザーを狙うことが求められるが、実はほとんどの初期フェーズにおいてはもっとユーザーを狭めるべきケースの方が多い。 ターゲットユーザーの定義を広げて、多くの人が喜ぶ商品を作ったつもりでも、実際はなかなか売れずに苦戦してしまうケースが多いのだ。 今回の記事では、新規事業や新商品を生み出す企業にとって、どのようにターゲットユーザーを考えていけばいいのかといった、新規事業担当者としておさえるべき基本を、過去に大企業内で新規事業に携わっていた筆者の視点から改めて紹介する。 ニーズが多様化し、「全ての人に愛される商品」がそもそも作れない時代に これまでの商品開発やマーケティングにおいては、可能な限り広い層を対象者と捉えて、広範囲にアピールすることが重要だとされてきた。しかし、そこから時代は大きく変化しており、今やそのようなアプローチが通用しなくなっていることを感じている企業も多い。 なぜ、「できるだけ多くの人に愛される商品を作る」が難しくなったのだろうか。 近年、人々の嗜好や価値観はますます多様化している。インターネットやソーシャルメディアが普及し、あらゆる情報に誰もがアクセスできるようになったことで、消費者は個々に好きなコンテンツやモノを消費することが当たり前になった。その結果、消費者のニーズや価値観が細分化されるようになったのである。 このような多様な価値観やニーズにさまざまな企業が応えていった結果、今日の市場はかつてないほどあらゆる商品で溢れている。また、消費者も無数の選択肢を前に、何を選ぶべきか吟味するようになった。 ここで、「あらゆる消費者のニーズに応えるために、さまざまな機能を詰め込んで全員のニーズをカバーしたらよい」と考える方もいるかもしれない。しかし、さまざまなことができるが自分の課題を少しだけしか解決できない「万能」な商品は選ばれなくなってきている傾向にある。 なぜなら、無数の商品がある時代において、特定のニーズに深く応える「専門」の商品も代替手段として存在していることが多く、一つの課題をできるだけ深いレベルで解決する商品のほうが、浅いレベルでしか解決できない商品よりも消費者にとって価値を感じるからだ。 消費者の目に留まり、価値を感じてもらうためには、商品は明確に差別化されなければならない時代になっている。 「誰にも使われない機能を持つ製品」が生まれてしまう2つの理由 普及する「順序」を見極める 「では、多くの人に広くあまねく商品を届けるのは無理で、ニッチな層にしか売ってはいけないのか?」と思われる方もいるかもしれないが、安心してほしい。絞り込んだターゲットユーザー以外へのアプローチを諦める必要はない。 重要なのは、商品がどのように市場に受け入れられ普及していくのか、その「順序」を深く理解した上で戦略を立てることだ。 ここで注目すべきなのが「イノベーター理論」だ。 イノベーター理論とは イノベーター理論(Diffusion of Innovation Theory)とは、スタンフォード大学の教授エベレット・M・ロジャーズ氏によって1962年に提唱された、新しい製品やサービスがどのように市場に浸透していくかを説明したものだ。 この理論を理解することで、商品がどのようにして広がっていくのかを体系的に捉え、適切な戦略を立てることができる。 イノベーター理論は、ある商品に対する全体の顧客セグメントを普及の段階別に5つに分けて考える方法で、それぞれのグループは製品やサービスに対する受け入れ方が異なるとされている。 新商品が普及していくのは、一般的にイノベーター、アーリーアダプター、アーリーマジョリティ、レイトマジョリティ、ラガードの順であると考えられる。 イノベーター(2.5%): イノベーターは、新しいものを積極的に「とにかくまず試したい」という強い欲求を持つ人々だ。この層の人々はリスクを厭わず、新しい技術や商品に対して早くから関心を示す。また、商品が市場に出た直後に真っ先に手を出す人々でもあり、この顧客層からのフィードバックは商品やサービスをよりよい形にブラッシュアップし、次の市場を拡大するための重要な情報源となる。 アーリーアダプター(13.5%): アーリーアダプターは、新しいものを吟味し、前向きに購入を検討する人々だ。この層はイノベーターほど冒険心が強いわけではないが、新しい技術やトレンドに対して敏感であり、自分自身の評価に基づいて購入を決定する。 アーリーマジョリティ(34%): アーリーマジョリティは、自分自身で判断するよりも、「流行っている」または「他の人が使っている」ものを重視して購入する層だ。この層は一般的にはやや購買行動に慎重で、商品がある程度の人気や信頼を得た後に購入を決断する。 この層の人々は、例えば利用者から多くの高い評価がレビューにつかないと新しい商品を買わなかったり、人気の最新テック商品はセールのときだけ購入したりという行動をとる傾向にある。 レイトマジョリティ(34%): レイトマジョリティは基本的に購入には消極的で、周囲のほとんどの人が使い始めて初めて、ようやく使用を検討する顧客層だ。この層の人々はリスクを避け、安全性や確実性を重視する。例えば、現金での支払いにこだわってカードやQR決済を避けたり、オンラインでは買い物をせず店頭でのみ買い物をしたりという慎重な行動をとる。 ラガード(16%): ラガードは、どんなリスクも負いたくないと考えるような、最も保守的な層だ。この層の人々は新しい技術や商品に対して非常に慎重であり、それが大多数に普及し当たり前の伝統となって初めて購入を考え始め、腰を上げる。 新商品が普及する顧客層の「順序」に応じた戦略構築 では、イノベーター理論を活用して、どのように戦略を立てていけばいいのだろうか。 新商品は各顧客層に段階的に普及していくものであり、一段飛ばしに普及させることは極めて難しい。まずはその商品がどの普及フェーズなのかを見極めて、その段階に応じて顧客層のフォーカスを定めた、適切な戦略を適用していくことが必要だ。 ターゲットユーザーを考えるときは、まずはざっくりと新商品が最初に普及する層と、一定普及した後に届けるマス層に分けて考えるのがよいだろう。 それぞれのグループは、初期市場、メインストリーム層と呼ばれる。一般的には、イノベーターやアーリーアダプターが「初期市場」を形成し、アーリーマジョリティ、レイトマジョリティ、そしてラガードが「メインストリーム市場」と言われる。 既にローンチしている商品の拡大戦略を考える場合は、その商品の顧客層が初期市場なのかメインストリーム市場なのか、どちらに該当するのか現在地をまず考えてみるとよい。新規事業・新商品の場合はまずは初期市場に集中しよう。 初期市場(イノベーター、アーリーアダプター) 初期市場にいるイノベーターとアーリーアダプターにアプローチするには、まず「真っ先に使ってくれて、泣いて喜んでくれる顧客は誰か?」を考えるとよい。こうした考えを整理し、チームで認識を合わせるためには具体的なペルソナを作ることがおすすめだ。 ペルソナを作成するためのリサーチや書き方の例については、下記の記事も参考にしてほしい。 実践デザイン思考!量より質を極めるユーザーリサーチ基本のキ 自身の過去の新規事業においても、初期市場のターゲット層をぐっと絞り込んだことで支持が得られた経験がある。 ある防犯系のプロダクトを考えていた当初、ターゲット層は小学生や中高生、20〜30代の大人と広く定義しており、さらにBtoBで塾や予備校、学校などにも購入してもらうビジネスモデルを考え、複数のユーザー層と同時に対峙していた。 しかし、この層の人々の価値観や不安度はまちまちで、求める機能や価値もユーザーによって差がある状況だった。 このとき、チームで「真っ先に使ってくれて、泣いて喜んでくれる顧客は誰か?」を改めて考え、都市部に住む20代の女性で、ペインの強い人をペルソナに設定してプロダクトの機能を絞り込んで設定していった。 その結果、ターゲットユーザーから熱い支持を得て、商品ローンチ前にもかかわらず複数の購入予約を得ることができた。 メインストリーム市場(アーリーマジョリティ、レイトマジョリティ、ラガード) 商品が初期市場で成功し広まった後、次にメインストリーム市場に進むためには、アーリーマジョリティとレイトマジョリティにアプローチする必要がある。これらの層は、商品の安定性や信頼性、そして周囲の評判を重視する。 新規事業においては、初期のうちは品質よりスピード重視で商品を作るというのが定石だが、このフェーズからは品質を上げることが求められるだろう。例えば、初期市場で得たフィードバックを反映して商品を改善し、体験の品質や製品の信頼性を向上させるというのも有効だ。 また、マーケティング戦略においても、例えばユーザーレビューを積極的に集めて公開することでメインストリーム市場の顧客からの信頼を獲得し、商品の価値を証明するというのも効果的と考えられる。 ターゲットを段階的に捉えて成功した事例:Uber Uberを例に、段階的にターゲットを捉えてビジネスを拡大する考え方を見てみよう。(出典をもとに翻訳・編集) Uberは現在約70か国、10,000以上の都市に展開するライドシェアリングサービスだ。乗客のユーザー層も様々で、高齢者や身体障がい者にもサービスを提供している。 また、電気自動車を選んで乗車できるUber Green、ペットと乗車できるUber Petなどのオプションもあり、多様なニーズに対応している。 まさに「全ての人々をターゲットにした、全ての人に愛されるサービス」に見えるが、現在のサービスになるまでにさまざまなステップを経て、現在のサービスに仕上がっているということを無視してはいけない。Uberははじめ、ターゲットを限定的にしてスタートしている。 2010年にサービスをスタートした当初、Uberの初期顧客は、タクシー代を払う余裕がある、自分の街の交通業界の現状に満足していないサンフランシスコのプロフェッショナルワーカーだった。 当時のサンフランシスコではタクシーの需要と供給の差が大きく、「乗りたいのにタクシーが捕まらない」ことに人々がうんざりしていた。プロフェッショナルワーカーたちは確実に移動をするために、既にプライベートハイヤーやリムジンサービスなどの代替案も試してきたので、問題を解決する新たな方法を試す意欲も強かったのだ。 このフェーズにおいてUberははじめ、一般人のドライバーが自分の車を使う現在のUber Xのような形態ではなく、プロのドライバーが運転する黒塗りの車が呼べるサービスからスタートした。 プロフェッショナルワーカーのニーズに合わせて、質の高い体験を提供することでその体験を口コミで顧客が広めてくれるようにするためだ。 口コミ戦略は非常に成功し、友人にサービスを紹介することで自分自身も割引を獲得できるというマーケティング戦略と組み合わせたことで一気に広まった。 ここから、利用シーンやターゲットユーザーも徐々に広まっていく。プロフェッショナルワーカーに限らず、カンファレンスイベントや休日の夜のパーティーの帰りなど、需要の高い時間を狙って割引コードを駅で配るなどしてプロモーションを行い、大量の顧客を獲得していった。 利用目的も普段の通勤や、食料品の買い物などにシフトしていき、サービス提供地域もタクシードライバーが不足しているニューヨークや、パリなどへと拡大していった。 今や様々な国や地域であらゆる人々に利用され、多くのオプションも用意されているサービスも、最初は非常にターゲットを絞って、段階的に戦略を変えて今があるということがわかる。 まとめ ここまで見てきたように、商品は一気に市場の全ての人々に広がるわけではなく、各フェーズで適切な戦略を採用し、段階的に広げていくことが求められる。イノベーター理論を理解し、正しい「順序」で顧客を捉えていけば、最終的には多くの人々に愛される商品となっていくだろう。 そのためには、まず商品がどの普及段階に今いるのかを見極めることが重要だ。新商品や新規事業の場合は、抽象的な「誰も」が愛する商品を作ることを狙うのではなく、まずはフォーカスを絞ったターゲットに対して、深く刺さる商品を生み出し、段階を進んでいきながら広く遍く普及させていくというマインドを持っておくことが大切だ。 ビートラックスでは各フェーズでの顧客の解像度を上げていくためのユーザーリサーチや、そのデータを用いた新規事業・新商品開発、マーケティング戦略の立案・実行の伴走支援をしている。 ビートラックスのサービスや過去のプロジェクト事例にご興味をお持ちの方はぜひお気軽にお問い合わせ頂きたい。 弊社サービス紹介ページ お問い合わせページ